「形象」という言葉の意味を解説!
「形象」とは、抽象的な概念や感情が具体的な姿や像となって知覚される状態、あるいはその結果として生まれた“かたち”そのものを指す言葉です。
日常的には「イメージ」や「姿形」と訳されることもありますが、単なる外見描写にとどまらず、頭の中で構築された視覚・聴覚・触覚などの総合的な表象までも含みます。
哲学や心理学では「表象(representation)」に近い概念として扱われ、美術分野では作品に具現化された視覚的イメージのことを示します。
文学の世界では、詩や小説において読者が受け取る情景や雰囲気の“像”を表し、比喩表現と密接に関係しています。
「形象」が特筆すべきなのは、客観的に観測できる“形”と主観的に感じ取る“像”の両面が共存する点です。
この言葉を用いることで、個々人の内面に浮かぶイメージと、外界に存在する物理的形態を同時に言い当てられます。
美術批評では「抽象絵画における形象性」というように、形を持たない作品の中に潜む象徴的イメージを語る場面でも用いられます。
そのため、単語自体が含む意味領域は広く、専門家ほど文脈によるニュアンスの違いを意識して使い分ける傾向があります。
「形象」の読み方はなんと読む?
一般的な読み方は「けいしょう」で、音読みのみを用いるのが現代日本語の標準です。
ただし、漢文訓読の影響が色濃い学術書などでは「ぎょうしょう」と読まれる例も散見されます。
これは「形」を「ぎょう」、「象」を「しょう」と読む呉音系の訓読が残存しているためで、仏教経典を読む際などに耳にすることがあります。
一方、訓読みや混読(音訓混合)は存在せず、「かたちあらわ」といった読み方は誤りなので注意が必要です。
日本語辞典の多くでは最初に「けい‐しょう【形象】」と見出しが立ち、次に「〈まれ〉ぎょう‐しょう」と補注されます。
日常会話やビジネスシーンで使う場合は「けいしょう」と読むのが無難であり、誤読を避けるためにもフリガナを添える配慮が好まれます。
なお、「継承(けいしょう)」や「敬称(けいしょう)」といった同音異義語が多いため、書き言葉では漢字表記を確実に示して誤解を防ぎましょう。
専門分野の口頭発表では、最初に「形象(けいしょう)」と発音と文字をセットで提示することで聴衆の理解が格段に向上します。
「形象」という言葉の使い方や例文を解説!
「形象」を使うときは、具体的な視覚像が浮かぶかどうか、あるいは抽象概念の可視化を意図しているかを考慮すると文章が引き締まります。
まずは文学的用法の例です。
【例文1】主人公の孤独感は、雨に濡れた街路樹の影として形象されていた。
【例文2】内面的苦悩がモノクロの風景に形象され、読者に強い印象を残す。
上記のように、人の感情や思想を情景へ置き換える際に便利です。
続いて美術評論での用法を見てみましょう。
【例文3】抽象画ながらも、中央の鮮烈な赤が生命力を形象している。
【例文4】彫刻家は人間存在の不安を歪んだ曲線として形象した。
この場合、視覚芸術で視覚以外の要素を伝達する手段として「形象」を使います。
ビジネスシーンでも応用できます。
【例文5】ブランドの核心価値をロゴとカラーパレットで形象することで、認知度を高めた。
【例文6】顧客体験を曲線的な店舗導線として形象し、回遊率向上を狙う。
最後に学術的文章の例です。
【例文7】ユング心理学では、集合的無意識が共通の元型として形象化される。
【例文8】古代神話に見られる太陽神の形象は、農耕儀礼の象徴である。
このように、分野ごとに文脈が異なっても「抽象→具体」の流れを示す語として一貫して使えるのが特徴です。
「形象」という言葉の成り立ちや由来について解説
「形」と「象」という漢字はどちらも“かたち”を意味しますが、前者が物理的外形、後者が視覚的イメージを示す点に違いがあります。
「形」は甲骨文字において骨や器に刻まれた線刻“彡”が原形であり、固有の輪郭を持つ物体を描いた字でした。
一方「象」は、もともと動物の“象”をかたどった象形文字で、転じて「かたどる」「うつす」の意が派生しました。
ゆえに「形象」という二字熟語は、古代中国で「具体的な形とそこに表れる象徴性」の両面を併せ持つ語として誕生したと考えられます。
日本へは奈良〜平安期の漢籍伝来と共に輸入され、仏教哲学において「色即是空」の“色”を説明する用語としても機能しました。
やがて平安中期以降、和歌や物語文学の中で「心象」と対比的に用いられ、唐物(からもの)の写実的表現を示す言葉として定着します。
明治期になると西洋哲学や心理学の翻訳語として「representation」「image」の訳語にあてられ、学術的ニュアンスが一気に高まりました。
その後、戦後の芸術評論や詩学において再評価され、今日では専門家から一般人まで幅広く利用される語となっています。
「形象」という言葉の歴史
古代中国の『荘子』や『易経』には「形象」という表記がすでに登場し、宇宙の理(ことわり)が具体物として現れる過程を論じています。
日本では平安時代の漢詩集『和漢朗詠集』に見られるのが最古級の例で、宮廷文化の雅やかな情景を描写する語として使われました。
鎌倉〜室町期の仏教説話では、修行者が瞑想で得たビジョンを「形象」と記し、精神世界の視覚化という意味合いが強調されました。
江戸期になると俳諧や絵画の評論でも出現し、俳人・松尾芭蕉は「風雅の誠」が花鳥風月の形象に宿ると語っています。
近代では夏目漱石が『文学論』で「情緒を形象に移すことが文学の役目」と述べ、西洋美学の枠組みに接続しました。
昭和期の思想家・吉本隆明は、共同幻想を成り立たせる要素として「形象」を位置付け、社会学的議論に発展させます。
さらに現代アートの文脈では、物理的形態を持たないデジタルデータやインタラクティブな光のインスタレーションも「形象」と呼ばれるようになりました。
このように時代ごとに解釈が拡張されつつ、核心にある「抽象を具体に降ろす」という性質は一貫して受け継がれています。
「形象」の類語・同義語・言い換え表現
代表的な類語には「イメージ」「表象」「姿」「図像」「シンボル」があり、文脈によって置き換え可能です。
「イメージ」は最も口語的で広範な使い方ができ、視覚以外の印象も含む点で「形象」と重なります。
「表象」は心理学・哲学の用語で、頭の中にある像を重視する場合に適していますが、芸術的な質感はやや薄れます。
「姿」「姿態」は視覚的外見を直接指すため、抽象概念を含む場合は「形象」のほうがニュアンスが豊かです。
「図像」は視覚芸術で用いられる専門語で、アイコンやピクトグラムのような明確な形と意味が結びついたものを示します。
「シンボル」は象徴そのものを指し、具体的な形がない場合にも使われますが、形象性を問うときは「形象的シンボル」という言い換えが好まれます。
ほかに「具象」「具体化」「可視化」なども近縁語ですが、前二者は名詞、後者は動詞的ニュアンスが強く、用途によって選択します。
言い換えの際は、抽象度の高さと受け手がイメージを描ける程度を意識すると失敗が少なくなります。
「形象」の対義語・反対語
厳密な対義語は定義しにくいものの、もっとも近い反意概念は「抽象」「無形」「観念」といった語です。
「抽象」は具体的・個別的特徴をそぎ落として一般化する行為や状態を示し、形象が“かたちを与える”のに対して“かたちを取り払う”方向性を持ちます。
「無形」は法律用語でも用いられ、「無形文化財」など物理的形態を持たない対象を示す点で、形象の“有形性”と対立します。
「観念」は頭の中にある思考内容そのもので、まだ具体的な像を結んでいない状態をイメージさせるため、形象化の前段階として配置される概念です。
そのほか「抽象化」「脱象徴」「虚像」といった語も反意的に働く場面があります。
ただし、文学評論などでは「形象と抽象が交錯する」と表現するように、対立というより連続性で捉えるケースが多いです。
したがって文章上で対義語を選ぶ際は、「形象化のプロセス」に注目してあえて対置するか、「形象性の欠如」を指摘するために使うのか、目的を明確にしましょう。
適切に反対語を設定すると、議論の輪郭が際立ち、読者の理解が深まります。
「形象」と関連する言葉・専門用語
「形象」は美術・文学・心理学を横断するキーワードであり、「モチーフ」「フォルム」「アイコン」「アフォーダンス」など多彩な専門用語と結び付いています。
美術用語の「フォルム(form)」は純粋な形態を指し、質量や材質を伴う点で形象と重なりますが、象徴性は必ずしも前提としません。
「モチーフ」は作品の主題となる要素で、視覚的・概念的形象を繰り返し表す際に使われます。
デザイン学の「アフォーダンス」は環境が使用者に提示する行為の可能性で、実際の形態が行動を誘発するため“機能の形象”と称されることがあります。
心理学の「メンタルイメージ」は脳内で再生される感覚的像で、外界の形象が内面に取り込まれ再構成されたものといえます。
宗教学では「神像」や「アイコン」が信仰の対象を視覚化した形象とみなされ、偶像崇拝を巡る議論が古くから存在します。
言語学の「シニフィアン/シニフィエ」理論では、シニフィアン(能記)が物理的な形象として、シニフィエ(所記)が観念を担うと整理され、両者の関係がコミュニケーション基盤を形成します。
こうした関連語を踏まえると、「形象」という言葉が学際的なハブとして機能していることが理解できるでしょう。
「形象」についてよくある誤解と正しい理解
最大の誤解は「形象=具体的な形そのもの」と限定してしまい、内面的イメージや象徴性を含む広義の意味を見落とすことです。
たとえば「形象彫刻」という言葉だけを取り上げ、「リアルな人形彫刻のこと」と断定するのは誤りで、抽象形態でも視覚イメージを喚起すれば形象的と評されます。
逆に、完全に抽象的な概念であっても、比喩やシンボルによって想像上の像が浮かぶ場合は「形象化された思想」と述べることが可能です。
また、「形象」と「象形」は混同されやすいですが、後者は文字の起源である“象形文字”の範疇に限定されるため、意味領域が狭い点に注意しましょう。
次に、同音異義語との混同です。「継承」「敬称」「軽傷」などと音が同じため、音声のみのコミュニケーションでは誤解が発生しやすいです。
書き言葉であれば漢字を示すことで回避できますが、口頭では「けいしょう、形の形に象」と補足する工夫が推奨されます。
第三に、「形象=難解な学術用語」という先入観です。実際にはビジネスのブランディングや日常会話のイメージ共有にも応用できる汎用的語彙であり、敷居は高くありません。
最後に、形象を「単なる視覚表現」と誤解して聴覚や触覚のイメージを軽視するケースがありますが、音や手触りを通じて想起される像も立派な形象です。
「形象」という言葉についてまとめ
- 「形象」とは抽象的概念や感情が具体的な姿として現れる状態・像を指す語である。
- 読み方は主に「けいしょう」で、文脈により「ぎょうしょう」と読む例もある。
- 古代中国の哲学語として始まり、日本の文学・美術・心理学へと受け継がれてきた歴史がある。
- 使用時は“抽象→具体”の流れを意識し、同音異義語との混同や意味の限定化に注意する。
形象という言葉は、目に見える形だけでなく、心に浮かぶ像や象徴性までも包含する奥行きの深い語彙です。
読み方の落とし穴や意味の広さを理解すれば、文学やビジネス、さらには日常会話に至るまで、豊かな表現手段として活用できます。
歴史的に見ると、古代の宇宙論から現代アートまで連綿と受け継がれ、常に「抽象を可視化する」役割を担ってきました。
今後もデジタルテクノロジーの発展により、新しい形象の形態が生まれると予想されますので、言葉の本質を捉えつつ柔軟に使いこなしていきましょう。