「忘年」とは?意味をわかりやすく解説
年末が近づくと「忘年会」という言葉を耳にする機会が増えますが、その由来にもなっている「忘年」という言葉そのものは、実は大きく分けて二つの意味を持つ、奥行きのある言葉です。
そのカギを握っているのが「年」という一文字で、「年齢」を指す場合と「一年間」を指す場合とで、意味の枝分かれが生まれています。
一つ目は、年齢の差を忘れてしまうほど親しく心を通わせて付き合うという意味で、年上か年下かという立場の違いをまったく気にせず、対等な一人の人間として付き合う、深い信頼関係を表します。
身分や経験の差を超えて心を通わせる、やや格式張った響きを持つ意味です。
二つ目は、その一年の間に積み重なった苦労やつらい出来事を、年の終わりにきれいさっぱり忘れてしまうという意味で、「忘れる」と「年」という漢字がそのまま組み合わさった、素直でわかりやすい成り立ちです。
誰もが一年の終わりに感じる「区切りをつけたい」という気持ちに、すっと寄り添う言葉でもあります。
実はこちらの意味こそが、年末の恒例行事である「忘年会」という言葉の語源にもなっており、私たちの生活の中に深く根づいています。
単なる宴会の呼び名ではなく、一年間働いた自分自身をねぎらうという、本来の温かい心を映した言葉なのです。
この記事では、この二つの意味がそれぞれどのような場面でどう使い分けられているのか、正しい読み方や成り立ちの由来もあわせて、順を追ってわかりやすく解説していきます。
「忘年」の読み方は「ぼうねん」
「忘年」は「ぼうねん」と読みます。
「忘」を音読みで「ぼう」、「年」を音読みで「ねん」と読む、音読み同士を組み合わせた読み方で、特別な当て字や送り仮名を必要としない、シンプルな二字熟語です。
「忘」も「年」もふだんの生活では訓読みで目にすることが多い漢字なので、つい「わすれどし」のように訓読みで読んでしまう方も少なくありません。
実際、大人になってから読み方を勘違いしていたことに気づいたという声もよく聞かれます。
「今年」「来年」「去年」のように、日常でよく使う「年」を含む言葉の多くは訓読みで読むため、「忘年」も同じ感覚で「わすれどし」と読みたくなる気持ちは自然なことです。
しかし辞書のうえで正式な読み方とされているのは音読みの「ぼうねん」だけで、文章や会話で使うときは必ずこちらを使うようにしましょう。
読み方に迷ったときにおすすめなのが、年末の恒例行事である「忘年会(ぼうねんかい)」という、なじみ深い言葉から逆算して思い出す方法です。
「忘年会」という四文字のうち、頭の二文字「忘年」がそのままこの言葉の読み方になっていると考えれば、無理なく自然に記憶へ残すことができます。
「忘年会」という言葉自体は、子どもから大人まで世代を問わず広く浸透していますから、そこを足がかりにしておけば、いざ「忘年」という二文字だけで出会ったときにも、読み間違える心配はまずありません。
「忘年」が持つ二つの意味を使い分ける
「忘年」には、ここまでで触れたとおり大きく二つの意味があり、同じ「忘年」という漢字でありながら、使われる場面や込められたニュアンスはまったく異なります。
それぞれの特徴をきちんと知っておくと、文章を読むときにも自分で書くときにも、意味を取り違えずに済みます。
一つ目は「年齢差を忘れて親しく交わること」という意味で、「忘年の交わり」「忘年の友」のように、限られた言い回しのなかで使われる、やや古風で文学的な響きを持つ意味です。
二つ目は「その一年の苦労を忘れること」という意味で、こちらは「忘年会」という一つの言葉の中にほぼ吸収されるようなかたちで、今も日本語の中で広く使われ続けています。
単独で「忘年」という二文字だけが登場する場面は、むしろまれだといえるでしょう。
見分け方はシンプルで、「交わり」や「友」など人とのつながりを表す言葉が添えられていれば意味①、「会」と結びついていたり単独で使われていたりする場合は意味②と考えて、まず差し支えありません。
文脈の中にヒントとなる言葉が必ずといっていいほど隠れています。
現代の日常生活で意味①が登場する場面は、文章やあらたまった挨拶などにほぼ限られる一方、意味②は忘年会というかたちで誰もが毎年のように耳にする、圧倒的に身近な意味になっています。
意味①のほうの存在をまったく知らないまま「忘年」を使っている方も、決して少なくないでしょう。
「忘年」の由来―中国の故事に見る成り立ち
「忘年」という言葉、とりわけ「忘年の交わり」という言い回しは、中国の歴史書『後漢書』に記された、孔融という学者にまつわる故事に由来すると言われています。
孔融は儒学者・孔子の子孫にあたる人物で、当時「建安七子」の一人に数えられるほどのすぐれた文人としても知られていました。
その孔融が、自分より二十歳近くも年若い禰衡という人物の並外れた才能に惚れ込み、身分や年齢差をまったく気にすることなく深い親交を結んだと伝えられています。
禰衡はまだ無名の若者でしたが、孔融はその文才をいち早く高く評価していたそうです。
本来であれば年長者として一歩距離を置いてもおかしくない間柄でありながら、孔融は禰衡を対等な友として遇し、その才能を惜しんで朝廷に推挙する文章まで書き残したとされています。
地位や名声よりも、相手の人柄と才能そのものを見ていたのでしょう。
この故事が「年齢を忘れるほどの深い交わり」という発想のもとになり、のちに「忘年の交わり」という言葉として日本にも伝わり、漢詩や漢文の素養とともに少しずつ定着していったと言われています。
つまり「忘年」の「忘」には、単に記憶を失うという意味ではなく、年齢という隔たりをものともしない、温かい心の在り方が込められているのです。
この故事の背景を知っておくと、「忘年の交わり」という言葉の重みや味わいが、より深く感じられるようになるはずです。
「忘年会」に「忘年」という字が使われる理由
年末になると各地で「忘年会」が開かれますが、なぜこの言葉に、単なる慰労会でも打ち上げでもなく、わざわざ「忘年」という字が使われているのか、考えたことはあるでしょうか。
その背景には、一年の間にたまった苦労や心配ごと、嫌な出来事を、年の終わりに皆で一緒に忘れてしまおうとする「年忘れ」という古くからの行事があったと言われており、これが現在の忘年会の源流にあたるとされています。
室町時代にはすでに、公家や武家のあいだで夜を徹して連歌を詠み合うなどして、一年の労をねぎらう風習があったとされ、これが「年忘れ」の原型になったと考えられています。
身分の上下を問わず、お酒を酌み交わしながら、その年にあった嫌なことや失敗を笑い話に変えていく、無礼講に近い場でもあったようです。
この「一年の苦労を忘れる」という考え方に、そのまま「忘年」という漢字が当てはめられ、のちに宴会をともなう「忘年会」という言葉として世の中に定着していったと考えられています。
「年忘れ」という素朴な和語が、いつしか漢語風の「忘年会」という呼び方に置き換わっていったのです。
現在のように大勢で酒を酌み交わす、にぎやかな忘年会のスタイルが広まったのは、明治時代以降のことだとされています。
それでも根底に流れる「一年の苦労をねぎらい、心をリセットする」という思いそのものは、時代が変わっても受け継がれているのです。
「忘年の交わり」「忘年の友」という言い回し
「忘年」という言葉は、単独で使われるだけでなく、「忘年の交わり」「忘年の友」という趣のある慣用句の中でもよく用いられています。
これは年齢の差をまったく気にせず、まるでその差を忘れてしまったかのように深く心を通わせる交友関係を表す言い回しです。
たとえば四十代の人と七十代の人が、年齢や立場の違いをまったく感じさせないほど対等な友人として語り合うような間柄のことを、「忘年の交わり」と呼びます。
実際の年齢差そのものよりも、人柄や考え方、感性が合うかどうかが重視される点が、この言葉の大きな特徴だと言えるでしょう。
「忘年の友」もほぼ同じ意味で使われる言葉で、生まれた時代や世代の違いを超えて、互いに深く心を許し合える相手のことを指しています。
どちらの言葉も、普段の何気ない会話というよりは、式典の挨拶文や誰かを偲ぶ追悼の言葉、伝記などの改まった文章の中でよく見かける表現です。
正直なところ、現代の日常会話の中でこの言い回しをそのまま耳にする機会は、それほど多くはありません。
若い世代には馴染みが薄く、意味そのものを知らないという人も、決して少なくないだろうと思います。
それでも、こうした由緒ある言い回しの意味を知っておくと、格調高い挨拶文や少し古い時代の文章を読むときの理解がぐっと深まります。
友人とのちょっとした会話に一言添えるだけでも、教養を感じさせる粋な表現になるはずです。
「忘年」を使った例文集
- 【例文1】年齢の差を感じさせないお二人のご関係は、まさに忘年の交わりと呼ぶにふさわしいものです
- 【例文2】今夜の忘年会、何時から始めるか幹事に聞いておいてくれる
- 【例文3】本年も残すところわずかとなりましたので、来る12月20日に忘年会を開催いたします
- 【例文4】年齢を忘れて語り合える恩師とは、忘年の友と呼べる間柄だと思っています
- 【例文5】拝啓 師走の候、部署一同で忘年会を催したく、ご案内申し上げます
- 【例文6】学生時代の恩師とは今も忘年の交わりを結んでおり、毎年年賀状をやり取りしています
こうして例文を並べてみると、「忘年会」は日常会話でも気軽に使える言葉である一方、「忘年の交わり」「忘年の友」はやや格調高く、改まった場面にふさわしい言葉だと分かります。
特に手紙やあいさつ状では、「拝啓 師走の候」のような時候のあいさつと組み合わせて、「忘年会」や「忘年の交わり」という言葉が使われることが多いようです。
普段の友人同士の会話なら「忘年会」で十分ですが、目上の方への手紙や式典の言葉なら「忘年の交わり」を使うと、より丁寧で品のある印象になります。
使う場面を意識するだけで、言葉選びの幅がぐっと広がるはずです。
「忘年」と似た言葉との違い
「忘年」とよく似た言葉に「年忘れ」がありますが、意味はほぼ同じでも、ニュアンスには少し違いがあります。
「年忘れ」は和語らしい柔らかな響きを持ち、俳句の世界では冬の季語としても使われてきた言葉です。
一方の「忘年」は漢語的な響きを持つ言葉で、「忘年会」のように熟語の一部として使われることが多いのが特徴です。
単独で日常的に使われることは少なく、どちらかというと書き言葉寄りの語だと言えるでしょう。
近年は「忘年会」の代わりに「望年会」という表記を見かけることもありますが、こちらは新しい年に希望を「望む」という意味を込めた、比較的新しい言い換えとされています。
辞書に載る正式な言葉としては、あくまで「忘年会」が標準的な表記です。
また「新年会」と混同されることもありますが、両者が指す時期も込められた気持ちも、実は正反対だと言えます。
師走に開く「忘年会」に対して、「新年会」は年が明けてから開かれる集まりです。
「忘年会」が一年の苦労をねぎらい、過ぎた年をきれいに締めくくるための集まりであるのに対し、「新年会」はこれから始まる一年への期待や抱負を語り合う集まりだと言えるでしょう。
呼び方が似ているだけに、混同しないよう気をつけたい二つの言葉です。
「忘年」を使う際に気をつけたいポイント
「忘年」には「一年の苦労を忘れる」という意味と、「年齢を忘れる」という意味の二つがあるため、文脈によって取り違えないよう注意が必要です。
「忘年会」なのか「忘年の交わり」なのか、後に続く言葉によって意味が大きく変わる点を覚えておきましょう。
目上の方に対して「忘年」を含む言葉を使う場合は、敬語表現との組み合わせにも気を配りたいところです。
うっかりくだけた言い方と組み合わせてしまうと、せっかくの丁寧な言葉が台無しになってしまいます。
たとえば忘年会の案内状であれば、「〜を催したく存じます」「ご都合はいかがでしょうか」のように、丁寧な依頼の形にまとめると失礼がありません。
「忘年の友」と呼ぶ相手が目上の場合も、謙虚さの伝わる言い回しを選ぶと安心です。
また「忘年」は、話し言葉と書き言葉とで使われ方に差がある言葉でもあります。
会話ではあまり耳にしない分、書き言葉で出会うと少し硬い印象を受ける人もいるかもしれません。
普段の会話では「忘年会」を使うのがほとんどで、「忘年の交わり」「忘年の友」はスピーチや手紙など、書き言葉に近い改まった場面で選ばれる傾向があります。
場面に合わせて言葉を選べると、日本語の使い手として一目置かれるかもしれません。
「忘年」のまとめ
- 「忘年」の読み方は「ぼうねん」だけです。
- 「一年の苦労を忘れる」という意味と、「年齢を忘れて交わる」という意味の二つがあります。
- 由来は中国の故事にあると言われており、その心は今も「忘年会」や「忘年の交わり」という言葉に受け継がれています。
- 「忘年会」は日常会話で気軽に、「忘年の交わり」「忘年の友」は改まった場面で選んで使うと自然です。
ここまで二部にわたって、「忘年」の読み方や意味、由来から使い方まで、順を追って詳しく見てきました。
「忘年」は一年の苦労をねぎらう意味と、年齢を超えた交友を表す意味という、二つの顔を持つ言葉です。
「忘年会」という形で耳にすることがほとんどだと思いますが、目上の方との深い絆を表す「忘年の交わり」「忘年の友」という奥ゆかしい言い回しがあることも、ぜひ覚えておいてください。
似た響きの「年忘れ」「望年会」「新年会」との違いも、押さえておくと安心です。
意味や由来をきちんと知ったうえで使うと、忘年会の案内状やあいさつの言葉にも、一段と深みが増すはずです。
これから「忘年」という言葉に出会うたび、この記事のことを少し思い出していただけたら幸いです。