「当事者」という言葉の意味を解説!
「当事者」とは、ある物事や出来事に直接かかわりを持ち、権利や義務・責任を負う立場の人や団体を指す語です。裁判や交渉の文脈では「利害関係を有し、その結果に法的・社会的な影響を受ける人」を明示するために用いられます。
日常会話でも「関係者」という言葉に近い意味合いで使われますが、「当事者」のほうが主体性や責任の重さが強調されます。例えば、事故現場にいた目撃者は「関係者」と表現される場合がありますが、被害を受けた人・加害を行った人は「当事者」と呼ばれます。
また、心理学や福祉の分野では「当事者研究」のように、自身が体験する困難を専門家とともに語り合い、解決策を見いだすアプローチでも用いられます。この場合、「当事者」は単に関係者であるだけでなく、自らの声を発信し行動を起こす主体として位置づけられます。
要するに「当事者」とは、出来事の結果を真正面から引き受ける立場にある人を示す、責任と主体性を伴った言葉なのです。
「当事者」の読み方はなんと読む?
「当事者」の読み方は「あとうじしゃ」ではなく、「とうじしゃ」と読みます。「当」は漢音で「とう」と読むのが一般的で、音読みを重ねて「とうじしゃ」となるので誤読に注意が必要です。
国語辞典・用字用語集でも「とうじしゃ」と明示されており、公的な文書や報道機関の用語基準も同様です。読み誤る例として「当」の字を「その」と訓読みし、口語的に「そのじしゃ」と言い換えてしまうケースがありますが、これは正式な読みではありません。
ビジネス文書でフリガナを入れる場合は「当事者(とうじしゃ)」と括弧書きし、相手に誤読の余地を与えない工夫が推奨されます。公式プレゼンや契約書では、一度でも読み方を誤ると「法律に疎い」とみなされかねないため、読みの確認は必須です。
「当事者」という言葉の使い方や例文を解説!
「当事者」はフォーマルな場面から日常会話まで幅広く使用できます。使用時には「責任の所在がある」「直接影響を受ける」というニュアンスを意識すると誤用しにくくなります。自分自身が問題の中心にいる場合、謙遜して「関係者」と言うよりも「私は当事者です」と伝えたほうが的確です。
【例文1】事故の当事者同士が示談交渉を行った。
【例文2】福祉サービスを設計する際には利用者本人という当事者の意見が欠かせない。
ビジネス場面では「ステークホルダー」と重なる部分もありますが、企業外部の利害関係者を含む場合は「関係者」、内部で契約上の責任が明確な場合は「当事者」と使い分けると誤解が生じません。裁判用語では「訴訟当事者」「契約当事者」など、後ろに具体的な名詞をつけるのが一般的です。
口語でのポイントは「当事者意識」という形で、主体的に課題に取り組む姿勢を示す表現として頻繁に使われることです。
「当事者」という言葉の成り立ちや由来について解説
「当事者」は「当」と「事」と「者」の三語から成る熟語です。「当」には「そのものにあたる」「ふさわしい」という意味があります。「事」は出来事や用件、「者」は人を示す語で、三つが結びついて「その事にあたる人」という字義上の意味が生まれました。中国古典にも同様の構成が見られ、日本語へは漢文訓読の形で輸入されたと考えられています。
平安時代の法令集「延喜式」には、官人選定の場面で「当事者」という表記が確認できますが、当時は特定の官職を担う者という限定的な意味でした。江戸時代に入ると武家社会での訴訟実務が活発化し、「訴訟当事者」という用法が一般に浸透しました。
明治以降の近代法体系整備に伴い、フランス法の影響を受けた「当事者主義」という概念が刑事手続に導入されます。この際、「当事者」が「主体的権利行使者」として再定義され、現代的な用語の骨格が築かれました。つまり、「当事者」は法制史のなかで役割を拡大しつつ、今日の多義的なニュアンスを獲得したのです。
「当事者」という言葉の歴史
古代律令国家では、「当事者」はもっぱら官僚機構内で使用されましたが、鎌倉期の御家人同士の訴訟文書にも散見され、武家社会でも普及し始めたことが分かります。江戸幕府の寺社奉行所がまとめた裁判記録「寺社奉行日記」には、当事者を「申立人」と対比して用いる記述があり、法的責任主体を示す言葉として定着していたことがうかがえます。
明治期には西欧近代法を翻訳する流れで「パーティー(party)」の訳語としても採用され、条約英文の邦訳に「当事者国」「締約当事者」が並びました。大正デモクラシー期以降は労働争議や社会運動の文脈で市民自身を「当事者」と名乗る事例が増加し、言葉が市民社会へと浸透しました。
戦後は国際人権法の影響を受け、「障害者の権利条約」の翻訳過程で「障害当事者」という表現が登場し、福祉領域で重要概念となりました。インターネット時代の現在では、SNSで個人が自分の立場を発信する文脈でも使われるため、語義はさらに日常化しました。
このように「当事者」は、制度化された法言語から市民運動用語へ、そしてオンライン発信のキーワードへと変遷しながら意味範囲を拡張してきた歴史を持つ言葉です。
「当事者」の類語・同義語・言い換え表現
「当事者」に近い意味を持つ語には「関係者」「当人」「本人」「主体」「ステークホルダー」などがあります。ただし、これらの語は責任や利害の強さ、法的立場の有無で微妙にニュアンスが異なるため、状況によって使い分けることが大切です。
「関係者」は広義でのかかわりを示し、傍観的な立場でも含む点が特徴です。一方「本人」は自称・他称を問わず、個人に焦点を当てた言葉で、法的文書よりも口語的に用いられます。「主体」は概念的で、行為や意思決定を行う勢力を指しますが、具体的な人物を想定しない場合もあります。
外来語の「ステークホルダー」は企業経営や公共政策で利害関係者を示す言葉として定着しましたが、法的責任を前提にするわけではありません。「当事者」を正確に言い換える場合は、責任や法的効力が確実に伴う文脈であれば「契約者」「訴訟人」といった専門用語を用いるのが望ましいです。
「当事者」と関連する言葉・専門用語
法律分野では「訴訟当事者」「契約当事者」「行政当事者」という語があり、それぞれ民事訴訟法、契約法、行政手続法で定義が異なります。また、刑事訴訟の「当事者主義」は、裁判官が審理を主導する職権主義と対置される概念で、両当事者(検察官と被告人)が主導する構造を意味します。
医療や福祉では「ピアサポート」という概念と結び付けられ、自身の経験を共有して支援し合う人同士を「当事者」と呼びます。教育分野では「主体的・対話的で深い学び」を促す「当事者意識」が重要視され、学習者が自分ごととして課題に取り組む姿勢を強調します。
ビジネスの現場では「プロジェクト当事者」が用いられ、企画・開発・販売に直接責任を負うメンバーを示します。対外的には「当事者能力」という言葉があり、法的行為を有効に行える資格を指します。こうした専門用語を理解すると「当事者」の輪郭がより立体的に見えてきます。
「当事者」についてよくある誤解と正しい理解
「当事者=当人」という短絡的な理解は誤解のもとです。「当人」は近い意味を持ちますが、法的責任の有無は含まれません。もう一つの誤解は「当事者」は必ず2者以上存在すると考える点で、実際には単独でも当事者になり得ます。
また「当事者=専門家」という誤解もありますが、専門家であっても問題に直接利害を持たなければ「当事者」ではありません。逆に一般市民でも行政サービスの利用者であれば、その制度の「当事者」です。
メディア報道では「当事者不在の議論」という表現がよく登場しますが、これは当事者の声が取り上げられていない状況を批判する意味で使われます。ただし「当事者を呼べば必ず公正」というわけではなく、利害調整やプライバシー保護の視点も必要であることを理解しましょう。
「当事者」という言葉についてまとめ
- 「当事者」は出来事に直接かかわり、権利と責任を負う人を示す言葉。
- 読み方は「とうじしゃ」で、誤読しやすいので注意。
- 漢語として古代から使われ、近代法の整備で意味が拡充した歴史を持つ。
- 使用時は責任の有無を意識し、関係者との使い分けが重要。
「当事者」という語は、法的文脈を中心に発達しながら、現代では福祉・教育・ビジネスなど多様な分野へ広がっています。責任と主体性を帯びた言葉であるため、使う際にはその人が結果を引き受ける立場かどうかを確認することが肝要です。
この言葉を正しく理解し活用できれば、議論の焦点が明確になり、関係者間のコミュニケーションも円滑になります。今後も社会の多様化に伴い、「当事者」の概念はさらに深化していくでしょう。