「偶有」とは?意味や例文や読み方や由来について解説!

「偶有」の読み方

「偶有」は「ぐうゆう」と読みます。

この言葉には訓読みが存在せず、辞書に載っている読み方も「ぐうゆう」という音読みひとつだけなので、覚えてしまえば迷うことはありません。

とはいえ日常生活の中ではほとんど見かけない漢字の組み合わせなので、初めて「偶有」という文字を目にしたときに、どう読めばよいのか戸惑ってしまう方も少なくないようです。

とくに見た目のよく似ている「偶然(ぐうぜん)」と混同されやすく、「偶」という字が共通しているせいで、つい同じような読み方を当てはめてしまう方も見受けられます。

また「固有(こゆう)」と読み間違えてしまうケースも多く見られ、「固有」は「そのものだけが本来から持っている性質」という意味を持つ言葉なので、実は「偶有」とは正反対に近い意味を表しています。

「偶」や「有」以外の字を当てる表記は存在せず、この二字で「ぐうゆう」と読むのが唯一正しい形であり、「偶数(ぐうすう)」など「偶」を使う他の熟語とあわせて覚えると定着しやすくなります。

読み間違えたまま使ってしまうと意味の取り違えにもつながりかねないので、漢字の並びをひとつずつ落ち着いて確認し、「ぐうゆう」と正確に読む習慣をつけておくと安心です。

「偶有」の意味とは

「偶有」とは、あるものにとって本質的ではなく、たまたま備わっている性質のことを指す言葉です。

そのものの本質そのものを揺るがすことなく、あってもなくてもそのものがそのものであり続けられるような性質のことを、「偶有」と呼んでいます。

たとえば人間にとって「考える力を持つこと」は本質に近い性質とされる一方で、「髪の色」や「身長」、「声の高さ」などはたまたま備わっている偶有的な性質にあたり、これらが変わったとしても、その人が人間であることそのものには変わりがありません。

椅子で考えてみても同じで、「座るための道具であること」は本質的な性質といえますが、「木製か金属製か」「何色か」といった特徴は偶有的な性質にすぎず、素材や色が変わっても椅子であることには変わりがありません。

この言葉はもともと哲学の世界で発展してきた専門性の高い語であり、日常のおしゃべりやニュースの中で使われることはほとんどなく、主に哲学書や評論、学術論文といった専門的な文章の中で出会う機会が多い言葉です。

国語辞典にも項目として載ってはいるものの説明は簡潔にとどまることが多く、より詳しい意味合いを知りたいときには哲学用語の事典をあたるとよいでしょう。

初めて目にすると意味がつかみにくく感じられますが、「本質ではないほうの性質」という軸さえ押さえておけば、決して難しい言葉ではなくなります。

「偶有」の語源・由来

「偶有」という言葉は、「偶」と「有」というふたつの漢字を組み合わせてできています。

「偶」には「たまたま」「思いがけず」という意味があり、「有」には「存在する」「備わる」という意味があるため、ふたつを合わせて「たまたま存在する」「たまたま備わる」という意味を表す言葉になったと考えられています。

この言葉は、古代ギリシャの哲学者アリストテレスが用いた概念の訳語として日本に定着したと言われています。

アリストテレスの哲学では、ものごとの「本質的に必然な性質」と「たまたま付随している性質」を区別する考え方があり、この後者にあたる概念を表すために「偶有」という訳語があてられたとされています。

英語ではこの概念が「accident」という単語で表されており、日常的には「事故」を意味するこの単語が、哲学の文脈では「たまたま備わる性質」を指す専門用語として使われている点も興味深いところです。

西洋の哲学用語が盛んに翻訳された明治期には、既存の日本語にはなかった概念を漢字の組み合わせによって新たに言葉にする作業が各分野で進められており、「偶有」もそうして生み出された訳語のひとつだと言われています。

漢字の組み立てそのものが意味をよく表しているため、由来を知ると「偶有」という言葉の理解がぐっと深まります。

「偶有」と「本質」の違い

「本質」とは、あるものがそのものであるために必然的に備わっていなければならない性質のことです。

これに対して「偶有」は、そのものにとって必然ではなく、たまたま備わっている性質を指すため、両者は対になる考え方として覚えると理解しやすくなります。

たとえば三角形にとって「三本の直線で囲まれていること」は本質的な性質ですが、「赤い三角形」「大きい三角形」というときの色や大きさは、三角形であることとは関係のない偶有的な性質にすぎません。

人間についても同じように考えることができ、「生命を持つこと」や「理性を持つこと」が本質に近い性質とされる一方で、国籍や職業、好みといったものはたまたま身についた偶有的な性質にあたります。

本質と偶有の境界線は、実際には議論が分かれる場合も少なくなく、同じ性質であっても、どの立場に立つかによって本質と見なされたり偶有と見なされたりすることがある点にも注意が必要です。

それでも日常的な理解としては、「それがなくなると、もはや別のものになってしまうかどうか」を基準にすると、本質と偶有をおおまかに見分けることができます。

本質と偶有はセットで覚えておくと、ものごとの性質を整理して考える力が身につきやすくなります。

「偶有性」と「偶有」の使い分け

「偶有」と「偶有性」はほぼ同じ意味で使われますが、文章の中での使われ方には少し違いがあります。

「偶有」がたまたま備わっている性質そのものを指す言葉であるのに対し、「偶有性」はそうした性質を持つという「状態」や「性質の在り方」に焦点を当てた言葉だといえます。

実際に哲学書や論文を読んでみると、「偶有」という形よりも「偶有性」という形で使われている場面のほうが多く見られる傾向があります。

これは「〜性」という接尾語をつけることで、抽象的な概念であることを明確に示せるため、議論の対象を明確にしたい学術的な文章になじみやすいからだと考えられます。

一方で「偶有」はより名詞としての性格が強く、「それは偶有にすぎない」「あくまで偶有である」のように、具体的な性質を指し示す場面で使われることが多いようです。

文中での置き換えやすさという点では、「偶有性」は「〜という偶有性を帯びている」のように文を柔らかくつなげやすいのに対し、「偶有」は「〜は偶有である」のように、断定的な言い切りの形で使われることが多いという特徴もあります。

性質そのものを論じたいときには「偶有性」、具体的な一つの性質を指したいときには「偶有」と、場面に応じて使い分けると自然な表現になります。

「偶有」の使い方

「偶有」は単独で使われるだけでなく、「偶有的」「偶有性」といった派生表現と組み合わせて使われることも多い言葉です。

「偶有的な性質」「偶有性を帯びる」「偶有的に存在する」のように、名詞や動詞と組み合わせることで、文章の中に自然に溶け込ませることができます。

実際の用例としては、哲学書や評論、学術論文といった専門性の高い文章の中で見かけることがほとんどで、小説やエッセイのような柔らかい文章の中で使われることはまれです。

「〜という偶有的な特徴にすぎない」「それは本質ではなく偶有である」のように、「本質」という言葉とセットで対比の形で使われることも多く、議論の輪郭をはっきりさせる役割を果たします。

そのため「偶有」という言葉を日常的な話題やカジュアルな文章の中で無理に使おうとすると、硬く堅苦しい印象を与えてしまい、かえって読み手を戸惑わせてしまうこともあります。

反対に、哲学的な話題を扱うレポートや、ものごとの本質を論じる評論といった文脈であれば、「偶有」という言葉を使うことで議論に専門的な深みを加えることができます。

場面を選んで使いさえすれば、「偶有」は文章に知的な印象を添えてくれる便利な言葉になります。

「偶有」を使った例文

  • 【例文1】アリストテレスは実体にそなわる性質を、変化しない本質と変化しうる偶有とに区別して考えました
  • 【例文2】理性をもつことは人間にとっての本質ですが、肌の色や身長といった特徴は偶有にすぎません
  • 【例文3】この絵画に使われている色使いは偶有的な特徴であって、作者の思想そのものを示すわけではありません
  • 【例文4】存在の偶有性について論じるときには、必然性との対比を欠かすことができません
  • 【例文5】肩書きや経歴といったものは偶有的なものであって、その人自身の価値を決めるわけではありません
  • 【例文6】流行のデザインは偶有にすぎないので、ブランドが大切にしている本質そのものは変わりません

これらの例文に共通しているのは、「偶有」がほとんどの場合「本質」という言葉とセットで使われている点です。

「偶有」は単独で使うよりも、「本質」との対比のなかに置いてこそ、その意味がはっきりと伝わる言葉なのです。

「偶有的」は性質のありかたを説明する形容詞のように使われ、「偶有性」はその性質を抽象的な概念としてとらえた名詞として使われます。

哲学における「偶有」の位置づけ

十範疇のなかの偶有

アリストテレスは、存在するものすべてを実体と九つの属性に分類し、これを十範疇と呼びました。

偶有は、実体に伴いながらも実体そのものの定義にはふくまれない性質として、この体系のなかに位置づけられています。

たとえば球体という実体にとって、丸いことは本質的な性質ですが、色や大きさは偶有の領域に属すると考えられてきました。

中世から現代への展開

中世のスコラ哲学では、偶有は実体を離れて単独では存在しえない性質として、神学上の議論も交えながら厳密に体系化されたと言われています。

現代の思想においても、存在のしかたが必然ではないことを指す「偶有性」という概念として、九鬼周造をはじめとする哲学者たちによって論じられてきました。

「偶有」の類義語・言い換え表現

「偶有」の類義語としては、偶然性、付帯性、偶発性といった言葉が挙げられます。

「偶然性」は出来事がたまたま起こる確率に注目した言葉で、「偶有」のように本質との対比を前提とするわけではありません。

「付帯性」はほぼ同じ意味で使われることが多く、哲学的な文章のなかでも自然に置き換えがきく表現です。

一方「偶発性」は出来事の突発性に焦点を当てた言葉なので、性質そのものを語る場面にはあまり向いていません。

厳密さを保ちたい文章であれば「付帯性」を、読みやすさを重視したい文章であれば「偶然的な要素」といった言い換えを選ぶとよいでしょう。

「偶有」を使う際の注意点

「偶有」はもともと哲学の専門用語なので、一般向けの文章でそのまま使うと読者に伝わりにくいことがあります。

読み方も字面もよく似た「固有」と混同しやすいので、使うときには特に注意が必要です。

「固有」はそのものだけが持つ特有の性質を指す言葉で、「偶有」とはむしろ正反対に近い意味になります。

そのため「偶有」を使うなら、論文や評論、哲学的な文章など、読み手にある程度の専門知識が期待できる場面を選ぶのが安心です。

「偶有」の意味のまとめ

まとめ
  • 「偶有」の読み方は「ぐうゆう」です。
  • 「偶有」とは、ものの本質ではなく付随的に備わる性質を指します。
  • アリストテレス哲学に由来し、「本質」と対になる概念として使われます。
  • 専門性が高い言葉なので、論文や評論など使う場面を選ぶと安心です。

「偶有」は読み方も意味も専門的に感じられる言葉ですが、「本質」との対比で考えれば、ぐっと理解しやすくなります。

ものごとの核心にある「本質」と、そこに付随する「偶有」をセットで覚えておくと、この言葉がすっと頭に入ってきます。

日常会話で使う機会は少なくても、評論や哲学的な文章を読み解くときには知っておくと心強い言葉なので、「固有」との違いを意識しながら場面を選んで使ってみてください。