「シニフィエ」の読み方と基本的な意味
「シニフィエ」は「しにふぃえ」と読みます。
もとはフランス語から入ってきたことばで、言語学や記号論と呼ばれる専門分野で使われてきた用語の一つです。
よく似た響きを持つ「シニフィアン」という言葉があるため、初めて学ぶ人はうっかり読み間違えたり、二つの意味を取り違えてしまったりすることが少なくありません。
シニフィアンは音や文字という「ことばの外側」を指す言葉であり、意味内容を指すシニフィエとは担っている役割がはっきり異なる概念なので、まずこの違いを押さえておくことが大切です。
シニフィエを一言でまとめるなら、ことばによって「意味されるもの」、つまり私たちの頭の中に浮かぶ概念や意味内容そのものを指す言葉だと言えます。
たとえば「花」という単語そのものの音や文字ではなく、その単語を耳にしたときに心の中にふわりと広がる「花というイメージ」にあたる部分こそが、シニフィエと呼ばれるものです。
同じように「悲しみ」という言葉を聞いたときに胸の内に生まれる感情のイメージも、シニフィエの一例として理解することができます。
この言葉は日常の会話や一般的な文章ではほとんど使われず、言語学や記号論、哲学といった専門分野の文献のなかで出会うことの多い、やや硬めの学術的な用語として位置づけられています。
そのため初めて目にしたときは身構えてしまうかもしれませんが、意味そのものはそれほど難しいものではありません。
「シニフィエ」とは何を指す概念か
シニフィエは、言語学者フェルディナン・ド・ソシュールが打ち立てた記号論において、「記号(シーニュ)」と呼ばれるものを成り立たせている二つの要素のうち、一方を担う概念です。
もう一方の要素はシニフィアンと呼ばれ、この二つが組み合わさることで一つの記号になると考えられています。
記号は、音や文字そのものを指す「シニフィアン」と、その音や文字が指し示す意味内容である「シニフィエ」という二つの側面が組み合わさって、初めて一つのまとまりとして成立するものです。
どちらか一方だけを取り出しても、記号としての機能を果たすことはできません。
シニフィエは音でも文字でもなく、ことばを耳にしたときに私たちの頭の中に浮かぶ概念やイメージそのものを指しています。
ここで注意したいのは、シニフィエは現実に存在する対象物(レフェラン)そのものではなく、あくまで私たちの意識のなかにある観念的な存在だという点です。
本物の猫が目の前にいなくても、「猫」という語を耳にすれば頭の中に「猫という概念」が自然と浮かび上がり、それこそがシニフィエに当たります。
つまりシニフィエとは、現実の生き物や物そのものではなく、ことばを通して私たちの心のなかに作り出される意味内容を指す概念だということになります。
この区別を意識しておくと、記号論特有の考え方がすっと理解しやすくなるはずです。
「シニフィエ」と「シニフィアン」の違い
シニフィアンとシニフィエは、常にセットで語られる対になった概念です。
シニフィアンは音の響きや文字の形といった「ことばの外側」を指し、シニフィエはその内側にある「意味そのもの」を指すという役割分担があります。
この二つは紙の表と裏のような関係にあり、どちらか一方だけでは記号として成り立たず、組み合わさって初めて一つの意味を伝えられるようになります。
たとえば「犬」という音の響きそのものはシニフィアンであり、その音を聞いたときに思い浮かぶ「犬という生き物の概念」の部分がシニフィエに当たります。
音と意味が一対になることによって、初めて「犬」というひとつのことばが成立していると考えることができます。
見落とされがちですが、この音と意味の結びつきは必然的なものではなく、それぞれの言語や社会のなかで恣意的に決められたものにすぎません。
実際、同じ「犬という概念」であっても、英語では「dog」、フランス語では「chien」というように、言語によってまったく違う音が当てられています。
この恣意性こそが、シニフィアンとシニフィエの関係を理解するうえで欠かせない視点であり、ことばが絶対的な決まりではなく社会の約束事の上に成り立っていることを教えてくれます。
「シニフィエ」の語源・由来
シニフィエという言葉は、フランス語で「意味する」を表す動詞signifierの過去分詞signifiéに由来すると言われています。
「意味されたもの」というもとの語感がそのまま、概念内容を指す専門用語として定着していきました。
この言葉を言語学の重要な概念として体系化したのが、スイス出身の言語学者フェルディナン・ド・ソシュールです。
彼は言語を音と意味が結びついた記号のシステムとしてとらえ、その内部構造を説明するための鍵として、シニフィエという考え方を用いました。
シニフィエという概念が広く知られるようになったきっかけは、ソシュールの没後に教え子たちが講義内容をまとめて出版した『一般言語学講義』だったと言われています。
ソシュール自身は生前、この理論をまとまった書物として自ら発表することはありませんでした。
残された講義ノートや学生の記録を弟子たちが丹念に編集し直したことで、ようやく一つの理論書として世に伝わったという経緯があります。
日本語に取り入れる際には、意味を日本語の訳語に置き換えるのではなく、発音をそのまま生かして「シニフィエ」と音訳する形がとられました。
そのため現在でもカタカナ語のまま、言語学・記号論の専門用語として使われ続けています。
「シニフィエ」が言語学・記号論で担う役割
シニフィエは、言語を音と意味が結びついた一つのシステムとしてとらえる、構造主義言語学と呼ばれる考え方の中心に位置する重要な概念です。
シニフィアンとシニフィエという対になる二つの概念を軸にして記号を考えることによって、言語という複雑な仕組みを一つの体系として説明できるようになったのです。
この考え方のおかげで、ことばの音と意味の結びつきが絶対的な決まりごとではなく、それぞれの社会や文化のなかで恣意的に取り決められたものであることを、筋道立てて説明できるようになりました。
音と意味の関係に「必然性がない」という視点は、当時の言語学に大きな転換をもたらしたと言われています。
さらにソシュールは、ある語の意味は単独で決まるのではなく、他の語との違い、つまり差異によって初めて定まるものだと考えました。
この差異にもとづく考え方は、シニフィエという概念と密接に結びついており、一つひとつの語の意味を単独でとらえるのではなく、ことば全体のシステムのなかで位置づけてとらえる視点を与えてくれます。
ソシュール以降、この発想は言語学の枠を超えて記号論や文芸批評、文化理論など幅広い分野に影響を与え、現代の人文学を支える基礎的な考え方の一つとなっています。
「シニフィエ」の使い方
シニフィエという言葉は、言語学や記号論、哲学、文芸批評といった専門的な文章のなかで主に使われます。
日常生活のなかで何気なく使うことばではなく、やや学術的な場面で登場する用語だと考えておくとよいでしょう。
基本の使い方は、対になる「シニフィアン」と並べて示し、音や文字の側と意味内容の側を対比しながら記号の仕組みを説明する形です。
たとえば「このシニフィアンに対応するシニフィエは何か」といった形で、ことばの音と意味の対応関係を分析する文章のなかで用いられることが多くあります。
論文のほか、現代思想や文化論を扱う評論でもよく見かける組み合わせです。
日常会話で使う場面はほとんどなく、論文やレポート、評論文、授業のなかで出会うことの多い言葉である点も押さえておきたいポイントです。
初めて目にしたときは硬い印象を受けるかもしれませんが、専門分野ではごく普通に使われる基本語です。
なお、「シグニフィエ」のように英語読みに近い表記で誤記されることもありますが、日本語の文献では「シニフィエ」という表記が広く定着しています。
執筆や引用の際には、出典や文章全体の表記にそろえて統一するよう気をつけましょう。
「シニフィエ」を使った例文
- 【例文1】ソシュールの記号論では、シニフィエとシニフィアンの結びつきは恣意的なものだと説明されています
- 【例文2】「花」という音のかたまり、つまりシニフィアンに対して、私たちの頭の中に浮かぶ花のイメージそのものがシニフィエです
- 【例文3】同じシニフィアンという言葉であっても、使われる文化や個人の経験によってシニフィエの内容は少しずつ変わることがあります
- 【例文4】このロゴが見る人の中に喚起するシニフィエを読み解くと、ブランドが本当に伝えたい価値観が見えてきます
- 【例文5】言葉の意味を論じるときは、シニフィアンという形だけでなく、シニフィエという内容にも注目する必要があります
- 【例文6】批評家たちは、この映画のワンシーンが持つシニフィエについて、長い時間をかけて議論を重ねてきました
6つの例文からもわかるように、シニフィエという言葉は単独で使われるよりも、シニフィアンと対にして語られることが多い言葉です。
シニフィエという言葉は、学術的な論文の中だけでなく、デザインや広告の分析でも「言葉や記号が示す意味内容」を表す便利な言葉として広く使われています。
「花」のように誰もが知っている具体的な語を例に出すと、抽象的な概念がぐっと身近に感じられるようになるはずです。
こうした例文のパターンをいくつか覚えておくと、実際の文章や会話でシニフィエという言葉に出会ったときにも、スムーズに意味をつかめるようになります。
「シニフィエ」と関連する用語
シニフィエとセットで覚えておきたい用語が、対になる概念である「シニフィアン(signifiant)」と、両者が結びついた記号全体を指す「シーニュ(signe)」です。
シニフィアンは音声や文字などの形式そのものを指し、シニフィエはその形式が示す意味内容を指しており、この二つが結びつくことで一つのシーニュという言語記号が成立します。
また、ソシュールは言語というシステムを、社会全体で共有される体系である「ラング(langue)」と、個人がその場で行う発話である「パロール(parole)」に区別しましたが、シニフィエはこのうちラングのレベルで人々の間に共有されている意味だと位置づけられています。
シニフィエと混同しやすい言葉に「レフェラン」(指示対象)があり、実際に存在する一匹の犬のような現実の対象そのものを指すレフェランとは異なり、シニフィエは「犬というもの」という頭の中で抽象化された概念を指します。
さらに、言葉が本来持つ明示的な意味(デノテーション)から広がる文化的・感情的な含みを表す「コノテーション」も、シニフィエという考え方を土台にして発展してきた概念です。
「シニフィエ」を理解する際の注意点
シニフィエという言葉を学ぶときに最も多い誤解が、辞書的な意味をたどるうちに「現実に存在する対象物そのもの」と「頭の中で思い描く概念」を混同してしまうことです。
シニフィエはあくまで私たちの頭の中にある意味内容であり、実際に存在する物そのものではないという点を、まず最初にしっかり押さえておく必要があります。
また、同じシニフィアンという言葉であっても、使われる言語や文化、さらには個人が育った環境や経験によって、思い浮かぶシニフィエの内容は人それぞれ微妙に異なってくることがあります。
そして、シニフィエという意味内容は一度決まったら永遠にそのまま固定されるわけではなく、時代の流れや使われる文脈、周囲の状況によって少しずつ変化していく性質を持っています。
さらに、シニフィアンとシニフィエの結びつきには特に必然的な理由がなく、あくまで社会の中で取り決められた約束事にすぎないという「恣意性」の考え方も、初学者にとっては誤解されやすいポイントです。
「シニフィエ」が日常やデザイン分野で使われる場面
シニフィエという言葉は、言語学の専門的な教科書の中だけでなく、広告やブランディング、マーケティングの現場でも広く使われるようになっています。
ロゴのデザインや配色、キャッチコピーが消費者の中に喚起するイメージを分析する際、「このデザインのシニフィエは何か」という視点で語られることがあります。
デザイン論や視覚文化論といった分野でも、作品や広告が持つ意味を読み解くための手がかりとして、シニフィエという概念がよく活用されています。
日常の会話やブログなどでは、学術的な厳密さよりも「このイラストが持つシニフィエを考えてみよう」のような、やや柔らかい意味合いで気軽に使われることも多いです。
学術以外の文脈で使うときは、ソシュールの理論を忠実になぞる必要はなく、「言葉や記号が呼び起こすイメージ」というニュアンスで気軽に使っても問題ありません。
「シニフィエ」のまとめ
- 「シニフィエ」は「しにふぃえ」と読み、言葉が示す意味内容・概念を指します。
- シニフィアン(音や文字などの形式)と対になる概念として理解することが大切です。
- ソシュールの記号論では、シニフィアンとシニフィエが結びついて一つの言語記号(シーニュ)が成立します。
- シーニュやレフェラン、コノテーションなどの関連用語とあわせて覚えると理解が深まります。
シニフィエの読み方や基本的な意味、シニフィアンとの対比を振り返りながら、文章を読むときには「これは形についての話か、意味についての話か」を意識してみましょう。
シニフィエとは、言葉の形であるシニフィアンに対して結びつけられる意味内容であり、現実の対象物ではなく私たちの頭の中にある概念である、という点が最も重要なポイントです。
ソシュールの記号論における位置づけを踏まえながら、シーニュやレフェラン、コノテーションといった関連用語もあわせて覚えておくと、言葉や記号への理解がさらに深まっていきます。