「掛声」とは?意味をわかりやすく解説
「掛声」とは、大勢で動作の調子をそろえたり、自分や仲間の気合を一気に高めたりするために、その場の勢いに任せて発せられる声のことです。
神輿を担ぐときの「わっしょい」や、重い荷物をふたりがかりで持ち上げるときの「よいしょ」なども、すべてこの「掛声」の仲間であり、私たちの生活のさまざまな場面に溶け込んでいます。
ふだん何気なく耳にしている声ですが、「調子を合わせる」「力を引き出す」というはっきりとした役割を担っている、思っている以上に奥の深い言葉なのです。
誰かと一緒に体を動かすときや、力仕事をともに行うとき、人は言葉を交わす余裕がなくても、こうした短い声だけは自然に交わし合っているものです。
「掛声」は、驚いたときに思わず出てしまう叫び声や、独り言のようにぽつりとつぶやく声とは、根本的に性質が異なります。
「わっ」という驚きの声には合わせる相手がいませんが、「掛声」には必ず「誰かと動きをそろえる」という、はっきりとした向かう先があるのです。
また、自分ひとりで気合を入れるために発する場合であっても、そこには「これから頑張るぞ」「もうひと踏ん張りしよう」という自分自身への働きかけが込められていて、単なる音の羅列とは一線を画しています。
国語辞典でも「掛声」は「力をこめたり調子をとったりするために発する声」といった形で説明されており、日常のふとした独り言やつぶやきとははっきり区別される、れっきとした言葉として辞書にも載っています。
「掛声」の正しい読み方は「かけごえ」
「掛声」は「かけごえ」と読みます。
表記としては送り仮名を入れた「掛け声」という形で書かれることも多く、新聞や書籍、また日常の会話などどちらの表記や場面で見聞きしても、意味や読み方が変わることはありません。
「掛」を「かけ」、「声」を「こえ」と読む、どちらも訓読み同士が組み合わさってできている言葉です。
音読みだけで構成される熟語とは違って、和語らしい柔らかく親しみやすい響きを持っているのは、そのためだと考えられます。
本来なら「かけこえ」となりそうなところ、後ろの「こえ」が「ごえ」と濁っている点に気づいた方もいるかもしれません。
これは二つの言葉が結びついて一つの複合語になるときに、後ろの音が濁る「連濁」と呼ばれる現象で、日本語の中では決して珍しくない、とてもよく見られる音の変化です。
「青空(あおぞら)」の「そら」が「ぞら」と濁ったり、「風車(かざぐるま)」の「くるま」が「ぐるま」と濁ったりするのも、同じ連濁のしくみによるものだと言われています。
「掛声」の「ごえ」も、こうした身近な言葉たちと同じ仲間だと考えると、ぐっとわかりやすくなるはずです。
音読みの言葉と読み間違えることはまずありませんが、送り仮名のない「掛声」という表記につられて、うっかり本来と違う読みを当てはめてしまう人も一部にはいるようです。
文章の中で使うときやふりがなを添えるときは、念のため「かけごえ」であることを確認しておくと、読み手にとってより親切で、誤読の心配もない文章になります。
「掛声」の語源・由来|「声を掛ける」という動詞から
「掛声」は、「声を掛ける」という動詞句が名詞の形にまとまってできた言葉だと言われています。
もともとは職人や漁師、農民たちが働く現場での日々の話し言葉の中で自然に生まれ、特別な語源辞典などに記録として残らないまま、長い時間をかけて一つの単語として定着していったと考えられています。
もとになった「掛ける」という動詞には、単に「声を出す」だけでなく「相手や物事に働きかける」という意味が含まれています。
この「働きかける」という感覚こそが、「掛声」という言葉の核心にあり、単なる発声とは一線を画す部分だと言えるでしょう。
橋を掛ける、腰を掛ける、電話を掛けるといった使い方と同じように、「掛声」もどこかに向けて能動的に働きかける響きを持つ言葉なのです。
ただぼんやりと声を発するのとは、意味あいもニュアンスもひと味もふた味も違うと言えるでしょう。
そのため「掛声」は、ただ音を発するだけでなく、周りの人や自分自身の心身に作用を及ぼす声として、古くから大切に使い続けられてきました。
単なる音ではなく、相手や自分への「働きかけ」だからこそ、人の心を動かし、体を突き動かす力を持っているのでしょう。
田植えのときに歌われた労働歌や、力仕事の合図、船をこぐときの調子取りの声、木遣りのような掛け声唄など、人が力を合わせて何かを成し遂げる現場では、こうした「掛声」が古くから欠かせない存在だったと考えられています。
「掛声」が使われる代表的な場面|祭り・スポーツ・労働
「掛声」は、大勢の人が動きやタイミングをそろえたり、その場の空気を一つにまとめたりする必要がある場面で、昔からとても幅広く使われてきました。
祭り、スポーツ、労働など、力を合わせるあらゆる場所に、この声はごく自然な形でしっかりと根づいています。
祭りや神輿担ぎでの「掛声」
祭りで神輿を担ぐときに威勢よく響き渡る「わっしょい」や「せいや」は、日本で最もよく知られた「掛声」の一つと言ってよいでしょう。
大勢の担ぎ手が重い神輿を持ち上げ、呼吸と足どりをぴったり合わせながら町を練り歩くために、この「掛声」がなくてはならない存在になっています。
スポーツや部活動での「掛声」
部活動やスポーツの現場でも、試合前に円陣を組んでみんなで気合を入れるときや、プレーの最中に仲間へ短く声をかけるときに「掛声」が使われます。
声を出し合うことでチームの一体感が自然と生まれ、動きのタイミングも合わせやすくなるうえ、苦しい場面での大きな励みにもなるのです。
建設現場や力仕事での「掛声」
建設現場で重い資材を運んだり、大きな道具をみんなで動かしたりするときの「せーの」や「よいしょ」も、力を一点に集中させるための「掛声」です。
掛声のタイミングが少しでもずれてしまうと、力の向きがばらばらになり、かえって作業が危険になってしまうこともあるため、現場では意外なほど大切にされています。
歌舞伎における「掛声」の特別な文化
歌舞伎の世界には、ほかの演劇の場面とは一味違う、独特の「掛声」の文化がしっかりと息づいています。
観客のほうから舞台に向かって声を投げかけるという、日本の伝統芸能ならではの、ほかの舞台芸術にはあまり見られない、興味深い習わしなのです。
屋号を呼ぶ「掛声」の仕組み
歌舞伎では、役者の家に代々伝わる「屋号」を、ここぞという場面で客席から呼びかける「掛声」が、特別な演出としての役割を果たしています。
「成田屋」「音羽屋」といった屋号を、役者が見得を切る決めの瞬間にぴたりと合わせて叫ぶことで、役者と客席が一体となり、舞台の熱気を一段と高めるのです。
「大向う」と呼ばれる観客の存在
こうした「掛声」を専門にかける観客は「大向う」と呼ばれ、劇場の後方や二階席など、舞台からやや離れた高い位置から声をかけることが多いと言われています。
長年その劇場に通い詰め、役者の芸風や演目の呼吸を隅々まで熟知した常連が、この役目を担うことも多いようです。
掛声をかけるタイミングやマナー
「大向う」の「掛声」は誰でも自由にかけてよいものではなく、役者の呼吸や見得のタイミングを正確に読みきる、長年の経験と確かな勘が求められる、簡単には務まらない役目です。
タイミングがわずかにずれた「掛声」は、かえって舞台の雰囲気を乱し、役者の集中を妨げてしまうため、暗黙のマナーとして今も大切に扱われています。
「掛声」の定番フレーズ集|「よいしょ」「せーの」「わっしょい」
「掛声」と一口に言っても、その種類は実に豊富で、発せられる場面や状況、そして地域によっても、微妙に意味や使いどころ、ニュアンスが異なります。
ここでは特によく使われる代表的なフレーズを、由来も含めて一緒に見ていきましょう。
- よいしょ:力を込めて重い物を持ち上げたり、しゃがんだ姿勢から勢いよく腰を上げたりするときに、思わず口をついて出る、ごく身近な「掛声」です。
- せーの:複数人で動作の開始タイミングを寸分たがわずそろえたいときに使う、短く歯切れのよい合図がわりの「掛声」です。
- わっしょい:主に神輿を担ぐ祭りで使われる、担ぎ手全体の勢いと一体感を大きく盛り上げてくれる「掛声」です。
同じ「力を出す」場面でも、一人で気合を入れて踏ん張るときは「よいしょ」、複数人で動作のタイミングをぴったり合わせるときは「せーの」というように、私たちは無意識のうちに「掛声」を自然に使い分けているのです。
似ているようでいて、実はそれぞれにふさわしい場面が、きちんと決まっているのです。
「わっしょい」の由来については、「和を背負う」という言葉から来たという説や、「和一処(わいっしょ)」という言葉が変化したという説、さらには特に意味を持たない掛声だとする説など諸説あり、正確な起源は今もはっきりとは分かっていないと言われています。
どの説が正しいとも言い切れない、言葉のロマンと言えるでしょう。
「掛声」をかける目的・効果
「掛声」は、ただ景気づけに叫んでいるわけではありません。
もっとも大きな目的は、複数人の呼吸や動作のタイミングをひとつに揃えることです。
神輿を担ぐ瞬間や綱引きで力を込める瞬間に声を合わせることで、動きの無駄がなくなり大きな力を発揮できます。
逆に掛声のタイミングがずれてしまうと、力がうまく合わずに逆効果になることもあります。
また掛声には、自分自身の気合を入れて士気を高める心理的な効果もあり、スポーツ選手が大技に挑む前に声を出すのも、迷いを振り払うためだと言われています。
さらに、同じ掛声を仲間と共有することで、集団作業に一体感が生まれるという効果もあります。
祭りの掛声が長く受け継がれてきたのは、声をひとつにすることで生まれる連帯感を人々が大切にしてきたからでしょう。
「掛声」の地域差・方言
「掛声」は全国共通ではなく、地方や祭りによって言い回しが大きく異なります。
同じ神輿を担ぐ場面でも、地域が変われば掛声はまったく違う言葉になることがあります。
例えば博多祇園山笠では「オイサ」、岸和田だんじり祭では「ソイヤ」「ヨーイヤサー」といった掛声が使われていると言われています。
沖縄のエイサーでも「イーヤーサーサー」という独特の掛声が今も受け継がれていると言われています。
こうした掛声の多くは、その土地の方言の発音やイントネーションが色濃く反映されたものだと言われています。
そのため、地元の人以外には意味がわかりにくい掛声も少なくありません。
「掛声」と似た言葉との違い
「掛声」と混同しやすい言葉に、「声援」と「号令」があります。
「声援」は応援する側が相手に向けて送る声であるのに対し、「掛声」は自分や仲間の動作を合わせるために発する声だという違いがあります。
観客席からの「頑張れ」は声援であり、選手自身が発する気合の声は掛声にあたります。
また「号令」は「気をつけ」のように上の立場の人が指示として発する声で、上下関係がはっきりしている点が掛声とは異なります。
掛声は基本的に対等な仲間同士で自然に発せられる声であり、命令のニュアンスは含まれません。
なお「掛け声」と送り仮名をつけて表記されることも多くありますが、意味の違いはなく単なる表記ゆれです。
日常会話では、声援や号令的な意味合いも含めて「掛声」とまとめて呼ばれることもあるため、文脈で判断することが大切です。
「掛声」を使った例文集
- 【例文1】重い家具を運ぶとき、家族で「せーの」と掛声をかけながら持ち上げた
- 【例文2】選手たちは試合前に円陣を組み、大きな掛声で気合を入れた
- 【例文3】新工場の稼働式で、社長は社員に向けて力強い掛声をかけた
- 【例文4】神輿の担ぎ手たちは威勢のいい掛声を響かせながら町を練り歩いた
- 【例文5】遠くから聞こえる掛声に誘われて、思わず祭りの方へ足を向けた
日常会話では、「せーの」のように短い合図としての掛声が中心で、家族や友人同士の何気ない場面でも自然に使われています。
スポーツやビジネスの場面では、気合を入れる・士気を高めるという意味合いで掛声という言葉が使われることが多く、円陣やミーティングの締めの言葉としても定番です。
文章表現としての「掛声」は、その場の熱気や情景を読み手に伝える効果的な言葉としても活躍します。
祭りやスポーツの描写に掛声を添えるだけで、文章に一気に臨場感が生まれるのでぜひ活用してみてください。
「掛声」のまとめ
- 「掛声」は「かけごえ」と読み、動作や気持ちを合わせるために発する声のこと。
- 語源は「声を掛ける」という動詞にあると言われている。
- 祭り・スポーツ・労働・歌舞伎など、幅広い場面で使われている。
- 「よいしょ」「せーの」「わっしょい」など、場面ごとに定番のフレーズがある。
ここまで「掛声」の目的や効果、地域による違い、似た言葉との使い分けなどを見てきました。
「掛声」は、単なる大きな声ではなく、人と人との呼吸を合わせ、心をひとつにするための大切な言葉です。
普段何気なく耳にしている掛声にも、実は地域や場面ごとの個性があります。
次に祭りやスポーツの場で掛声を耳にしたときは、ぜひその声に込められた意味や背景にも目を向けてみてください。